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by 認定NPO法人 開発教育協会 (DEAR)

About ALE

成人学習・教育とは

日本の成人学習・教育(ALE)

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日本における成人学習・教育

日本における成人教育はどのように展開されているの?

● 田中治彦 たなか・はるひこ

成人教育は日本では社会教育ないし生涯学習と呼ばれています。社会教育は学校教育・家庭教育以外の社会における教育学習活動のことであり、成人教育の他に青少年教育(Youthwork)も含まれます。(図1)

文部科学省が管轄する社会教育は1949(昭和24)年に制定された社会教育法などに基づいて運営されています。公民館、図書館、博物館、青少年施設、生涯学習センターなどが社会教育の事業を行っています。他省庁でも、社会福祉、環境、男女共同参画、国際交流、雇用などを担当する部局が成人教育に関連するプログラムを提供しています。

民間では伝統的な地域組織(青年団、婦人会、自治会)、非営利のNPO、営利のカルチャーセンターやコミュニティカレッジ、通信教育などが成人教育関連の事業や活動を展開しています。また、放送大学がメディアを活用した講義を提供し、多くの大学が市民対象の公開講座や社会人のための入学制度を整えています。

成人教育の主たる内容は5つあります。第1は職業・資格のための学習。職業に必要な知識・技術や資格の取得をめざして行われる教育学習活動です。第2は自己充足のための学習であり、趣味、スポーツ、娯楽などがここに入ります。ここでは学習活動は手段ではなく、それ自体が目的です。第3に日常生活・ライフサイクルのための学習です。人生の節目で行われる学習活動で、就職活動、結婚、家事、子育て、定年などに関連した学習活動です。第4に市民活動に必要な学習です。ボランティア活動、町内会・自治会、SDGsなどに関連した学習が含まれます。第5に補習です。十分な学校教育を受けられなかった人のための識字教育などがこれに相当します。現在では日本の学校教育を受けていない外国人のための学習活動としても展開されています。開発途上国における成人教育の多くは、成人のための識字教育として行われています。

社会教育とともに広く使用されている生涯学習(Lifelong Learning)は、生まれてから死ぬまで生涯にわたって、学校でも社会でも学習活動ができる教育体制を構築するという理念を指しています(図2)。生涯学習は、青少年のための学校教育・社会教育と成人のための学校教育(リカレント教育)・社会教育の双方がカバーされています。成人教育という場合、後者を指します。1991(平成3)年の生涯学習振興整備法により、都道府県単位で生涯学習センターが開設されました。

家庭教育・学校教育・社会教育の区分

図1 家庭教育・学校教育・社会教育の区分

生涯学習における成人教育

図2 生涯学習における成人教育

日本はどのような成人教育支援を行っているのでしょうか?

三宅隆史 みやけ・たかふみ / 小荒井理恵 こあらい・りえ

1. 政府開発援助(ODA)による成人教育支援

日本のODAを通じた開発途上国への教育援助は、図1のグラフからわかるように、高等教育支援に比重が置かれています。教育を十分に受ける機会のなかった若者・成人を対象に文字の読み書きや計算などを教える識字教育支援は「青年・成人の基礎的生活技能」に分類されますが、日本のODAによる教育援助額全体のわずか0.1%のみとなっています。また、職業訓練の援助額は4.8%に限られています。

図1 日本の政府開発援助の2014-2018の平均額(百万ドル、左側)と教育援助に占める割合(%、右側)

日本の政府開発援助の2014-2018の平均額

出所:外務省ウェブサイト https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/bunya/education/statistic.html (OECD/DAC CRSオンラインデータベース 約束額ベース)を基に作成

ノンフォーマル教育とは、正規の学校教育制度の枠外で行われる組織的な活動を意味し、学校に行く機会のなかった、あるいは中途退学した子ども、若者や成人の大切な学習機会を提供しています。日本のODAで行っている識字や技術訓練を含むノンフォーマル(学校外)教育支援には、たとえば、ODAの実施機関である国際協力機構(JICA)がパキスタンとアフガニスタンで実施してきた識字・ノンフォーマル教育支援があります。15歳以上の若者・成人の41%が文字の読み書きができず、学校にいけない子どもが2,280万人もいるパキスタンでは、日本人専門家の派遣のほか、2004年より、学校に行けない子どものためのノンフォーマル基礎教育と成人向けの識字教育のカリキュラム、教材、研修モジュール、学習達成度についての評価手法、データベースの開発など包括的な活動を通じたノンフォーマル教育制度の確立をパンジャブ州の行政機関と行いました。2015年以降対象地域を拡大し、2021年からはパキスタンの全地域において、成人の識字・技術訓練のほか、不就学の子ども・若者の初等教育や前期中等教育(日本の中学校)レベルの学習も促進するため、カリキュラムや教材、評価手法の開発・改訂と導入、データに基づくマネジメント、関係者の連携強化や政策策定支援などの活動を含む支援プロジェクトが開始しています。

アフガニスタンは、40年以上に及ぶ紛争、自然災害や、最近では新型コロナ感染症などの複合的、かつ長期化する危機下にあり、適切な教育を受ける機会がないまま大人になる人々が多く存在します。15歳以上の若者・成人のうち読み書きができるのは43%、とくに女性は29.8%と低く、深刻な課題となっています。JICAは2004年~2007年に若者・成人の識字や技術訓練などのノンフォーマル教育活動を行うコミュニティ・ラーニング・センターの設立を支援したほか、2006年~2008年にアフガニスタンの教育省識字局の能力強化およびNGOを通じた非識字者1万人への識字教育機会を提供する支援を行いました。さらに、2010年~2018年には、識字教育の質の向上のため、識字局が識字教育に関するモニタリングなどを適切にできるように行政能力の強化を目的とした支援も行いました。具体的には、識字教室のモニタリング、学習者がどの程度の識字能力を習得できたかの評価、教室数・教師数・学習者数などのデータ収集・報告に関するガイドライン・ツールなどの開発やアフガニスタンの全34県およびカブール市の識字局職員の研修などを識字局とともに実施し、各種ツールの国としての制度化に貢献しました。

このように、JICAの識字・ノンフォーマル教育支援は、その国の政府自体が適切に教育活動やモニタリング・評価などを行い、NGOなどの他の組織が支援する教育プログラムも含め、国として識字・ノンフォーマル教育の質を確保でできるよう制度の構築や行政の能力強化を中心とした協力を行っています。

(関連資料) ・独立行政法人国際協力機構 国際協力総合研修所(2000)「ノンフォーマル教育支援の拡充に向けて」 https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/11788767.pdf
・JICAウェブサイト https://www.jica.go.jp/project/pakistan/003/outline/index.html
及び https://www.jica.go.jp/project/pakistan/008/outline/index.html
・小荒井理恵・高柳妙子 (2016)「第14章識字・ノンフォーマル教育」小松太郎編『途上国世界の教育と開発』ぎょうせい、2016年
・教育協力NGOネットワーク (2017)「日本の教育協力NGO によるSDG4 への貢献」  http://jnne.org/doc/contribution_of_japanese_ngos_to_sdg4_ver2.pdf

政府開発援助(ODA)による成人教育支援

2. NGOによる成人教育支援

日本の国際協力NGO約500団体のうち、教育分野で活動する団体は70%と最も多く 、約350団体が教育協力事業を実施しています。2017年の58の教育協力事業の調査結果によると、成人教育分野では、職業スキルが50%、若者と・成人の識字が19%、ESDが19%です(図1)。また2006年の214の教育協力事業を対象とした調査によると、フォーマル教育が53%であるに対して、ノンフォーマル教育が47%を占めています。したがって、日本のNGOによる成人教育支援の特徴として、①職業スキルと識字を前出の日本のODAと比べて重視していること、②学校教育だけでなくノンフォーマル教育も通じた成人教育支援を行っていること、をあげることができます。

図2 NGOによる教育協力事業のSDG4の各ターゲットの貢献(58事業/複数回答あり)

NGOによる教育協力事業のSDG4の各ターゲットの貢献

NGOによる成人教育支援

成人教育支援の二つの良い事例があります。まず、日本ユネスコ協会連盟は1990年の国際識字年を契機に「世界寺子屋運動」を始めました。カンボジア、アフタガニスタン、ネパール、ミャンマー等アジア地域のコミュニティ・ラーニング・センターが、地域の学習ニーズに沿って、識字、職業や生計向上スキル強化を実施するための能力を強化しています。

第二に、シャンティ国際ボランティア会は、2019年6月から2020年7月までアフガニスタンで行った緊急人道支援の一環として、国内避難民やパキスタンなどからの帰還民である15歳以上の女性を対象に識字教育(150名)と縫製の技術訓練(75名)を実施しました。2020年3月には新型コロナウィルス感染症拡大のためすべての教育施設が政府によって閉鎖されましたが、教育省のコロナ対応計画に則り、感染予防のため屋外で、1回の授業につき5人の学習者で行うという方策を採用し、学習形態、場所や時間などノンフォーマル教育の特性である柔軟性を活かして教室は継続されました。この結果、150名すべての識字学習者が小学校3年生と同等の修了証を州教育局から授与されました。また、縫製クラスでは女性たちが感染予防のためマスクを製作しましたが、村人に低価格でマスクを販売し、収益があれば女性のエンパワメント活動に使用する計画も立てられました。シャンティによる支援終了後も地域住民によって活動は継続されました。

(関連資料)
・三宅隆史・小荒井理恵(2019)「第11章NGOによる国際教育協力」萱嶋信子・黒田一雄編『日本の国際協力 歴史と展望』東京大学出版会、2019年
・小荒井理恵(2021)「第51章NGOの支援活動」前田耕作・山田和也編著『アフガニスタンを知るための70章』明石書店、2021年
・教育協力NGOネットワーク (2017)「日本の教育協力NGOによるSDG4への貢献」 http://jnne.org/doc/contribution_of_japanese_ngos_to_sdg4_ver2.pdf

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