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by 認定NPO法人 開発教育協会 (DEAR)

About ALE

成人学習・教育とは

国際的な動向と成人学習・教育(ALE)

マーク
国際的な動向と成人教育

SDG4と成人教育は
どう関係するの?

● 近藤牧子 こんどう・まきこ /
三宅隆史 みやけ・たかふみ

SDG4は包括的なEFAの後継目標として位置づいています。SDG4は、「すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」です。SDG4には7つのターゲットと3つの実施手段が示されています。また、策定後に指標(indicator)が設定されました。指標は、ターゲットの達成度をモニターするための基準です。SDG4の7つのターゲットのうち、成人教育が関わるのは、4.3から4.7です。

4.3と4.4について

4.3と4.4は技術教育、職業教育に関するターゲットです。中でも、中等教育(中学・高校)卒業後の職業との接続が重要なテーマとされています。ユネスコではTVET(ティーベット:職業訓練教育 Technical and Vocational Education and Training)(※1)として施策を進めてきました。人間らしい就労をするために必要な技能を身につけるための教育機会を拡大し、結果として必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させることを目的としています。ユネスコは、2016年から2021年までのTVETの戦略計画書を発行し、SDG4達成への貢献を目標としています(※2)

(※1)1999年のソウルにて技術や職業に関する教育・訓練領域の総称となり、2000年にUNESCO-UNEVOC(International Center for Technical and Vocational Education and Training)の国際センターがドイツに設立された

(※2)“Strategy for Technical and Vocational Education and Training(TVET)(2016-2021),”UNESCO,2016

4.質の高い教育をみんなに
4.3

技術教育・職業教育・高等教育へのアクセス

SDGのターゲット4.3は、「2030年までに、全ての人々が男女の区別なく、手の届く質の高い技術教育・職業教育及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする」です。その指標は「過去12か月に学校教育や学校教育以外の教育に参加している若者又は成人(25歳から65歳)の割合」とされています。日本のこの指標データは42%(男性48%、女性35%)と低いです(2012年)(※3)。成人の学習機会が低い理由として、時間と距離の制約があげられています。学ぶ時間がない、あるいは近くに学べる場所がないために10人のうち6人近くの成人が1年間に一度も学ぶ機会を得ていないのです。公民館等の社会教育施設や成人向けの学習事業を実施しているNPOの役割は大きく、その振興が必要です。また雇用者側の努力によるワーク・ライフ・バランス(賃金や勤務時間を含む労働環境が生活と調和の取れるものであること)の実現も不可欠です。

また日本の技術・職業訓練は、労働市場ニーズとの整合性が低いという課題があります。雇用主の 89%は人材の獲得が困難であると述べ、労働者の 70%は現在の仕事をこなすにはもっと訓練が必要だと答えています(※4)。

高等教育への平等なアクセスについては、4 年制大学への進学率は、男子が56%に対し、女子は 50%と格差がいまだにあり、専攻分野における男女の偏りも課題です(文科省「学校教育基本調査(平成30年度)」)。

(※3)外務省 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/goal4.html

(※4)OECD https://www.oecd.org/tokyo/newsroom/4UPDATED%20Future-ready-adult-learning-2019-Japan_J.pdf

技術教育・職業教育・高等教育へのアクセス
4.4

働きがいのある人間らしい仕事や起業に必要な技能

ターゲット4.4は、「技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる」でその指標は、「ICTスキルを有する若者や成人の割合」とされています。ICTスキルのレベルは多様ですが、たとえば、「エクセル、Open Office等の表計算ソフトを使用して足し算や引き算等の簡単な計算をすることができる」人の割合は65%です(※5)。

職業スキルには指標に設定されているICTスキルだけでなく、職業に応じた多様なスキルが含まれます。また、雇われるためのスキルだけでなく、自ら起業するためのスキルも人工知能の発達とともに必要とされています。

また、職業スキルを習得するためには、まず読み書き・計算といった「基礎スキル」が不可欠です。その上に、自尊感情や問題解決、コミュニケーション、創造的思考、他者への共感といった「ライフスキル」(「汎用性の高いスキル」)が必要です(※6)。これらのスキルは起業するための能力であると同時に、人びとをエンパワーし、社会をより良くするためのスキルでもあり、ライフスキル分野の成人教育の振興が求められています。

(※5)外務省 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/goal4.html

(※6)UNESCO http://jnne.org/doc/2012_gemr_summary_2_japanese.pdf

国際的な動向と成人教育
4.5

ジェンダー格差の解消と脆弱層の教育アクセス

4.5は社会のマイノリティに対する教育保障です。マイノリティとは、数の少数派を意味するだけではなく、権力関係から社会的に脆弱な立場におかれる存在です。女性、セクシャル・マイノリティ、外国籍、障害者、先住民族、低所得層などがあげられますが、さらに、現在もしくは過去において、慢性疾患を抱える人、不登校である人、ヤングケアラー(若い頃から家族のケアにあたってきた人)、虐待を受ける人たちといった、教育にアクセスしにくいマイノリティの存在があります。強固な学校制度がある中で、そこに通える(アクセスできる)人たちへの教育保障がされていても、むしろその強固さゆえに、そこにアクセスできない人達への教育保障は不十分です。つまり、学校に通えない・通えなかったことが安定した職業生活を困難にしています。

4.6

成人の識字

ターゲット4.6は「全ての若者及び大多数(男女ともに)の成人が、読み書き能力及び基本的計算能力を身に付けられるようにする」です。日本政府は、読み書き能力、計算能力共に99%と報告していますが、このデータには、非識字者、知的・精神障害者、言語上の問題がある人(主に外国人)のデータが含まれていません(※7)。そもそも日本では1948年以来70年以上にわたり全国的な識字調査は実施されていません。早期に定住外国人を含めた全国識字調査を実施し、読み書き・計算能力の実態を把握するべきです。また、全国に36校しかない公立中学校夜間部を1県に1校設置するだけでなく、中核市にも設置したり、通信制を導入したり、ボランティアによる自主夜間中学へも支援したりできるよう教育機会確保法を改正すべきです。これにより、義務教育未修了者や形式卒業者の学習機会提供が可能になります。

(※7)国立教育政策研究所 https://www.nier.go.jp/04_kenkyu_annai/pdf/piaac_summary_2013.pdf

4.7

持続可能な開発を推進する知識とスキル

教育を通して、持続可能な開発の促進のために身につける価値の具体性を示しているのが4.7です。その教育とは、持続可能な開発、持続可能なライフスタイル、人権、ジェンダー平等、平和や非暴力の文化の推進、グローバル・シティズンシップ、文化の多様性と文化の持続可能な開発への貢献を学ぶことです。指標では、子どもたちを対象とする学校教育が強く意識されていますが、地域づくりや社会づくりの現場である、成人教育実践においてこれらが具体的に実施されることが、持続可能な開発を勧める過程そのものになります。なぜなら、大人が、グローバル・シティズンシップをもちながら生活を築き、地域や組織にある人権侵害や差別を解消し、ジェンダー平等を実現し、平和や非暴力の文化、文化の多様性や文化の尊重に基づいた地域や組織をつくることが持続可能な開発の促進だからです。そのためには、何がそれらを阻んでいるのか、現状課題は何かを学び、その課題に向かう知識とスキルを獲得する必要があります。

SDG4の
問題点

世界の成人教育・学習支援を行うCSO(市民社会組織)からは、これらのSDG4は、貧困層やマイノリティといった周辺化された人々を中心に置いたものではないという問題点がいくつか指摘されています。それらの問題点とは、たとえば、①生涯学習的観点に包含されており、成人の学習・教育の問題として特筆されていないこと。そして、②格差をうみ、教育の質の担保から遠ざかる、教育のプライバタイゼーション(民営化)や消費主義を批判的に捉えていないこと。また、③周辺化された人々への公的な教育保障の推進や識字と基礎教育普及が強く示されていない、などです。こうした問題点の背景には、SDGsが「普遍主義」の方針を取ったがゆえに、対象として想定される人々の幅広さが背景にあります。このような問題点を残しているSDG4には不十分さがあるとしても、上記の目標の中で、対象者を「すべての」と掲げている以上、インディケーターやモニタリング対象に、周辺化された人々や制度保障の問題を位置づけていく必要性があります。

成人教育に関する2015年勧告ってなに?

谷和明 たに・かずあき /
近藤牧子 こんどう・まきこ

「成人学習・教育に関する勧告(RALE)」は2015年ユネスコ第38回総会で採択された成人教育分野で唯一の国際法令です。条約のような法的拘束力はありませんが、日本を含む加盟国政府には、その条文を国民に周知し、実現に最大限努力することが求められています。

RALEは1976年の第19回総会で採択された「成人教育の発展に関する勧告」の改訂ですが、40年近い社会の変化を反映し、全く新たな文書となっています。1976年の勧告は、60年代以降の世界的な経済成長と大衆運動の高揚を背景に、生涯教育の核となる成人教育が時代の要請する公的課題であることを明確にし、その発展に必要な施策を体系的に提示する文書でした。そこに掲げられた目標、課題、施策は、今も成人教育の政策規範としての意義を失っていません。

とはいえ、76年勧告が前提していた成人教育分野への公的支出の拡大は、低成長時代の始まりと共に頓挫し、80年代以降は財政危機の下でむしろ成人教育への公的支出は抑制され、施設の民営化や専門職員の削減が進みます。そして新自由主義の台頭により、公的課題としての成人教育発展は「非現実」的となります。 その意味で、RALEは市場原理主義の拡大と公的支出の削減という現実に対抗して、成人教育の社会的有益性を実証できる施策を志向しています。それを示すのが、紙幅の半分を「政策、ガバナンス、財務、参加・包摂・公正、質」(注)という、あらゆる事業に共通する5つの活動領域に関連する施策に充てていること、さらにそれら施策の実現度を定期的にモニタリングする、情報収集・評価システムの構築を重視していることです。

また、RALEでは、教育、文化、政治、社会、経済的な今日的課題に対応していく成人教育の中心的学習領域として、①識字と基礎教育、② 継続教育と専門開発(職業スキル)、③リベラル・民衆・コミュニティ教育(アクティブ・シティズンシップ・スキル)が提示されました。これらは互いに独立しているのではなく、識字教育として、職業スキルやアクティブ・シティズンシップ・スキルの形成を展開すべきであり、職業スキルとして識字とアクティブ・シティズンシップの能力形成をはかり、アクティブ・シティズンシップ・スキルを培うための識字教育や職業教育、などが想定されています。

これからの、質の高い成人教育の展開に向けた、重要な指針がRALEには示されています。

(注)5つの領域は、第6回ユネスコ国際成人教育会議(ブラジル、ベレン開催)で採択された「ベレン行動枠組み」において明示され、各国の成人教育施策の進捗状況評価軸となっています。

持続可能な開発を推進する知識とスキル

上條直美 かみじょう・なおみ

持続可能な開発のための教育(ESD)は、持続可能な社会づくりの担い手を育む教育です。ESDの根拠となる「アジェンダ21(表の「1987年」を参照)」では、持続可能な開発のための教育は「市民の能力を高める」うえで重要で、フォーマルおよびノンフォーマル教育の両方において必要不可欠であるとして「意思決定への市民参加」が強調されています。また、「持続可能な開発のための教育:SDGs達成に向けて(ESD for 2030)」(表の「2020年」を参照)でも、ESDは「生涯学習のプロセス」であると言及されています。

SDG4.7では、持続可能性と平和・人権の価値に基づいた教育の普及をうたっており、ESDおよび開発教育、平和教育、人権教育、環境教育、ジェンダー教育、グローバル・シティズンシップ教育等の推進がSDGs達成の基盤となることが述べられています。そしてそれらの教育は、「全ての学習者」に対して実施されるべきものであると記されています。

ESDの略史

できごと
1987年 「環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)」が公表した報告書「Our Common Future(我ら共通の未来)」において持続可能な開発という概念が提示された。
1992年 リオデジャネイロ(ブラジル)において「国連環境開発会議」(UNCED,「地球サミット」)が開催され,行動計画「アジェンダ21」が採択され、第36章「教育、人々の認識、訓練の推進」の中で持続可能な開発のための教育の重要性とその取組の指針が盛り込まれた。
2002年 「持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)」の実施計画(以下「持続可能な開発に関する世界首脳会議実施計画」)の交渉過程で、日本のNPOからの提言により、日本政府から「持続可能な開発のための教育の10年」が提案され実施計画に盛り込まれた。9月の国連総会にて採択。
2005年 ~2014年 「国連持続可能な開発のための教育の10年(ESDの10年)」の実施。
2013年 第37回ユネスコ総会で「国連ESDの10年」の後継枠組みとして「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)」を採択。
2014年 「ESDの10年」を総括する「持続可能な開発のための教育(ESD)世界会議」が岡山と名古屋で開催。「あいち・なごや宣言」の中でGAPの推進を明記。第69回国連総会でGAPを採択。
2015年 ~2019年 GAPに基づいてESDを推進。
2019年 ユネスコ第40回総会でGAPの後継枠組みとして「持続可能な開発のための教育:SDGs実現に向けて(ESD for 2030)」が採択。第74回国連総会で採択。
2020年 ユネスコが「ESD for 2030 ロードマップ」を公表。
2021年 ユネスコとドイツ政府の共催による「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議」が開催。ESDはSDGs達成の鍵であるとする「ESD に関するベルリン宣言」を採択。
※この会議は当初は2020年に開催予定だったのが、コロナのため延期開催。

ノンフォーマル教育は、日本では社会教育、生涯学習という概念にあたります。学校教育以外の公民館や社会教育施設等が開催する講座や職場の研修などの非定型教育を指します(「日本における成人教育はどのように展開されているの?」参照)。社会教育におけるESDの実践は、きわめて現代的な課題であると言えます。社会教育は地域住民が生活課題や地域課題に根差して行う学習活動で、その前提には、民主主義やそのもととなる平等、人権、自由などの価値を大切にし、よりよい未来を創造していく力を育むということがあります。ESDの優先行動分野として掲げられている五つの分野(※1)のうち、地域コミュニティ(ESDへの地域コミュニティの参加の促進)は、社会教育が重要な役割を果たすべき分野です。日本では経済優先のまちづくりの結果、地域コミュニティが衰退する中で、2000年以降、あらたな動きとして市民参加型のまちづくりがNPO、自治体行政などによって行われるようになりました。しかし、そこに前述した社会教育の理念が体現されているかどうかはきちんと吟味する必要があります。

また、ESDの推進における実践的課題として、持続可能性とは何かというESDに内在する議論があります。ESD for 2030の現状認識として、気候変動と環境的な持続可能性の危機をあげており、それが「人間の行動・態度の産物」であると明記しています。持続不可能性は私たちの責任であり、私たち自身が行動変容をしていかないといけない問題です。しかし、環境問題の解決のために科学的理解や地球環境を守るべき、といった道徳的な行動変容を求める教育では不十分ですし、そもそもESDの実践が環境教育に偏りがちであることは大きな課題です。2017年に韓国で開催された、CONFINTEAⅥの中間会議の成果文書では、「成人学習・教育は、成人の学習への参加を保障し、それによってエンパワーメントとアクティブ・シティズンシップを通じて、民主的価値、平和、人権を促進する必要がある。そのため、ESDとGCE(グローバル・シティズンシップ教育)が培われるべきである。」とされています(※2)。持続可能な社会には、民主的価値が共有され、平和であり、そして人権が守られる人々の生活が不可欠です。SDG4.7にあるあらゆる教育・学習活動を推進し、環境を含めた地域社会、そして社会全体を再構成していくことが求められています。

(※1)5つの優先行動分野は、1)政策的支援(ESDに対する政策的支援)、2)機関包括的アプローチ(ESDへの包括的取り組み)、3)教育者(ESDを実践する教育者の育成)、4)ユース(ESDへの若者の参加支援)、5)地域コミュニティ(ESDへの地域コミュニティの参加の促進)である。 (※2)https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000261223/PDF/261223eng.pdf.multi

ESDまとめ
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