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by 認定NPO法人 開発教育協会 (DEAR)

政策提言

識字について:第7回ユネスコ国際成人教育会議報告

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識字について:第7回ユネスコ国際成人教育会議報告

2022年6月15日~17日にかけて、ALEプロジェクトメンバーが第7回ユネスコ国際成人会議(CONFINTEAⅦ)に参加し、その報告を本サイトで掲載しています。

本稿では、CONFINTEAⅦ2日目の本会議において「識字-生涯学習の基礎」と題して行われたセッションについて、主に識字政策・ガバナンス、財政およびデータについて報告します。

なお、本稿の一部は、機関誌『開発教育』第69号(開発教育協会、2022)に掲載しておりますが、こちらにはセッションでの各国の発言などを含め、より詳細な報告を掲載いたします。

CONFINTEA VII参加報告:識字について

教育協力NGOネットワーク(JNNE)
小荒井理恵

識字については主にCONFINTEA VII2日目の本会議において「識字-生涯学習の基礎」と題したセッションが行われた。識字は生涯学習の基礎であり、SDG4.6の特定のターゲットであるが、7億7,300万人以上の若者・成人(3分の2が女性)が基礎的な識字・計算スキルを満たしていない。識字の重要性についての全般的な合意や識字の課題があるにもかかわらず、識字のための財政、政策関心は低いままである。本セッションでは、このような背景の下、若者・成人識字の進展と課題を議論し、次の10年間に識字促進のための必要な行動領域を特定することを目的として、①拡大された識字の概念の実施、②識字政策・ガバナンスの改善、③識字促進のための財政課題、④識字についてのリサーチ・エビデンスとデータの強化について議論がなされた。本セッションはヘレン・ダブASPBAE事務局長がモデレーターを務め、エジプト、カナダ、ネパール、ブルキナファソ政府代表のほか、ユネスコ統計研究所(UIS)所長が登壇した。本稿では主に識字政策・ガバナンス、財政およびデータについて報告する。

1)識字政策・ガバナンス

ネパール

識字政策・提供とガバナンスはどのように行われているか、2030年までに何がなされる必要があるか、についてネパール教育・科学技術省次官補(Joint Secretary)より、多様性のある地方分権された国での識字・ノンフォーマル教育について以下の報告がなされた。

多言語・他民族国家であるネパールでは、包摂性は識字政策の中核を成す。また、2015年に連邦制に移行し、7州に753の地方自治体がある。憲法には様々な年齢層のための識字を含む基礎教育と中等教育が含まれるネパールは2016年にノンフォーマル教育政策を導入し、異なる年齢やレベルの学習者をターゲットとし、様々なプログラムと形態を通じて識字・ノンフォーマル教育を拡大してきた。カリキュラム・学習教材の開発と普及は徐々に地方分権化され、識字は市民の権利であり貧困撲滅の強力な手段とみなされている。国家識字キャンペーンは非識字撲滅の主な手段とみなされ、地方政府の主導の下、コミュニティ学習センター(CLC)、公立学校やマドラサなどの宗教・伝統的な学習センターが識字キャンペーンを行っている。

連邦政府は、地方政府が教育サービスを効果的に提供できるようにするため、国家政策、調整、質の確保、基準の設定に責任を持っている。地方政府は、女子・女性、脆弱な若者や他の周縁化されているグループのニーズに焦点を当て、公的な教育セービス提供や適正技術へのアクセスなどの学習環境の確保に責任を持つ。また、民間セクター、市民社会組織、非政府組織(NGO)のエンパワメントとパートナーシップを重視し、識字、生涯学習プログラムを拡大している。

2019年に新しい包括的な国家教育政策を導入したが、政策の主な目的には、ネパールを識字国家とし、ノンフォーマル、オルタナティブ、伝統的、かつ開かれた教育を通じた生涯学習の文化を構築することが含まれる。また、2030年に向けたビジョンは、繁栄し幸せなネパールの実現に貢献する有能な人的資源の開発などの目的とした、すべての人のための包摂的で公正で質の高い教育と生涯学習である。

現在、公教育との同等性やフォーマル、ノンフォーマル、インフォーマル教育の移動可能性を確保するため、国家資格枠組みとの法的および制度的整合性について取り組んでいる。

エジプト

また、エジプトGeneral Authority for Adult Education長官より、デジタル・スキルを重視した取り組みについて次の報告がなされた。報告によると、継続的な社会の発展のためには、基礎識字のみでは十分でなく、デジタル・コンピテンシーを重視している。したがって、2013/14年に承認された政策では、1) 低価格で若者、成人、子どものすべての人のアクセス確保を目的とし、インターネットを通じたバーチャルな学校の創設による非識字の撲滅、2) 民間セクター、市民社会組織と協力したプログラムの創設に焦点を当てている。学習者が労働市場に参入できるよう、デジタル・スキル、職業技術、手工芸の技術を習得できるよう学習機会を提供することが大切である。成人に対して魅力的であるよう、識字訓練を超えた生涯学習機会が重要である。

政府とNGOの協力で「共に学ぼう」というプログラムを実施しており、人々のデジタル・スキルの向上のためデジタル技術開発ユニットとソーシャルメディアを通じた研修コースを創設した。多くに人々がオンラインコースに参加している。また、世代間の学習も重視しており、周縁化された人々をターゲトとした非識字撲滅イニシアティブに大学の学生が参加している。女性の教育促進のためマイクロソフトとプログラムも開発した。教育の質の確保や学習成果の測定にもデジタル・スキルを用いたアプローチを採用している。

2)識字財政の重要性

識字財政については、主に国内財政を増やす取り組みの重要性について、ブルキナファソ(国家教育・識字・国家言語促進大臣)、ネパール、エジプトより以下の報告がなされた。

ブルキナファソ

例えばブルキナファソでは、識字財政は外部支援に頼っており、資金確保の方策を拡大する必要があるため、政府は識字プログラムから便益を受けた人々(識字プログラムに参加した人々の人的資源の恩恵を受けている現地の経済関係者も含む)を資金調達に積極的に関与させるよう努力している。識字財政を増やすためには、全体的な現地のエコシステムを見る必要がある。また、学校で学んでいる子どもが親に教えたり、政府と無償で協力している市民社会組織の存在など、ボランティアによる無償の活動も重要である。

ネパール

ネパールでは、中央・連邦政府の役割は、州・地方政府が公的資金の公正な配分を享受できるよう支援することである。2017年の政府間の財政計画・管理法は州・地方政府における税収の教育・識字への配分を規定している。2019年の国家教育政策は教育への投資を国家の優先として確保するものである。連邦・州・地方政府は相互協力の方針に則り、識字や他のプログラムの財政負担をシェアしている。持続的で公正な識字への財政を確保するため、教育2030ネパール国家枠組みは、識字を分離されたプログラムとはみなしていない。国の定期的な計画、中期的支出枠組み、年間戦略予算を通じてプログラムに予算を配分する。また、ネパールには強力な現地教育グループ(LEG)が存在し、NGOや開発パートナーを含めた関係者が政府提案のプログラムと予算を毎年共同でレビューすることは、財政ギャップを埋めるために重要である。

エジプト

エジプトでは、政府、NGO、民間セクターとの連携を重視しており識字プログラムへの補助金や必要な制度を整備し、市民社会組織や民間セクターのサービスを利用してギャップを埋めたり、人々の識字・成人教育の意識を高めるなどして、COVID-19危機下においても識字プログラムを継続した。成人教育に特別にイヤマークした予算があり、教育プログラムの支援のため特別なファンドを設立した。また、識字はすべての人に関連があることを示すため、政府はボランティアの文化も適用している。

3)識字データ

政策、財政、プログラムの改善のためには包括的で信頼性の高いデータが必要であり、SDG4.6.1インディケーターは、加盟国に若者・成人の機能的識字および計算能力の進捗を測定しモニタリングすることなどを求めているなどの背景がある中、UIS所長より以下のとおり識字能力の測定・モニタリングの最新の発展と課題が紹介された。

識字は学習の連続性を伴うという概念は、異なる能力のレベルにおける測定が必要であるが、「読むために学ぶ」から「学ぶために読む」という識字レベルの移行を伴う。これまで実施されてきた識字能力の測定手法には、OECDによる国際成人力調査(PIAAC)、世界銀行によるSTEP スキル測定、UNESCOによる識字評価・モニタリングプログラム(LAMP)があるが、それぞれの特長がある。PIAACは中間から高次のスキルの測定に優れており、STEP スキル測定は識字能力のみを対象としているため4.6.1インディケーターの報告に十分な測定ではない。LAMPは包括的で中間レベルのスキルの測定に優れ、低・中所得国に適しているといえる。

識字データの入手方法は自己申告ではなく直接評価が重要であるが、直接評価を行っている国を地域別にみると、深刻な課題がある。直接評価を実施しているのはアジア・太平洋地域は63ヵ国中22(35%)、アフリカは54ヵ国中4(7%)、ラテンアメリカは32ヵ国中7(22%)、北米・欧州は46ヵ国中31ヵ国とギャップがあり、政策策定、人々の識字支援と権利の保障、投資へのより良い指針のためには、これらのギャップを埋めることが必要である。また、識字データは81%が上記の3つの国際的な評価ツールより入手しており、6%は国レベルのみである。バングラデシュ、ボツワナ、ラオス、パプアニューギニアは識字と計算能力両方のデータを収集している。13%が国レベルと国際的な評価両方から入手している。

UNESCOの評価手法については、2015年以前にUISがLAMPを使用後、ユネスコ生涯学習研究所(UIL)によりMini-LAMPとして進められ、国の状況により多言語における評価や、質問の追加や削除、IT環境が十分確保できなくても実施可能な柔軟性などがある。

提言

最後に、マラケシュ行動枠組み草案への本セッションからの貢献として、以下の事項が提言された。

  1. 識字政策の実施とSDG4.6ターゲットを達成するための努力を倍にする強固なコミットメント
  2. 様々な文脈における学習者の生活を示すデータと情報による効果的な政策とプログラム
  3. より持続的な識字への財政支援の必要性。特に国内財源の活用と、政府開発援助(ODA)に関する既存の公約を満たすことを通じたSDG4の識字ターゲットの達成と技術研修の統合のため財政ギャップを埋めること
  4. 質の高い識字教育および教師とトレイナーを含めた成人識字分野の職業的な開発のための政策実施へのより強固なコミットメント
  5. 学習者の声を聴くことへのより強固なコミットメント

 以上

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